- 会社は10億円以上で売却できることがある
- しかし10億円以上で売却できた事例は多くない
- 会社売却額を10億円に近づける方法として、戦略的な交渉を行うことやタイミングを見極めることがある
- 価格交渉や譲渡相手探しについてはM&A仲介会社を利用することで、売却額が高くなる可能性がある
なお、M&Aの仲介業者は多数存在しており、自社の業界に強い業者とそうでない業者が混在しています。
そのため、どの会社に依頼するのかでM&A成功や売却額に大きく影響しやすいことから、複数の会社で見積もりをとってみるのがおすすめです。
実際に10億円で会社を売却できる?
会社を10億円以上で売却できる可能性はありますが、割合としては多くありません。
実際に10億円以上で会社が売れたケースがあります。その例の幾つかを以下で紹介します。
売却企業 | 買収金額(百万円) | 買収企業 | 売却企業主要事業 |
---|---|---|---|
microCMS | 1,501 | エイチーム | APIベースの日本製ヘッドレスCMSの開発・提供。 |
H2 | 1,100 | アプリックス | プロバイダー関連サービスなどの事業を展開 |
SalesX | 1,030 | キャリアインデックス | DXコンサルティング事業 |
ゼロフィールド | 1,265 | トリプルアイズ | AI・ビッグデータ関連システム開発・運用事業 |
シューマツワーカー | 1,166 | クラウドワークス | 副業マッチングプラットフォーム |
オーラ | 2,347 | タスキホールディングス | 提案力・営業力を強みとした資産コンサルティング事業 |
タノム | 2,386 | インフォーマット | 卸業者を対象としたシステム運営 |
(参照:M&Aデータベース)
上記の実例からもわかる通り、中小企業が10億円以上で売れる可能性はあります。しかし、その割合は少ない傾向にあります。
以下では、会社を10億円以上で売るために知っておくべきことについて解説していきます。
会社を10億円で売却するためには、年間利益が2億円ほどあればどんな業界でも10億円売却の圏内です。最低でも1億円の利益が出ている会社でなければ難しいと考えます。
会社を10億円規模で売却する2つの方法
M&Aによって会社を売却する際に用いられる手法(スキーム)には様々なものがあります。以下ではその内最も多く用いられる代表的な手法2つについて解説します。
株式譲渡
株式を売却することによって会社を売却する、株式譲渡という手法があります。中小企業のM&Aの際に多く用いられている手法です。
株式譲渡では、会社の経営権を丸ごと譲渡することになるため、手続きが比較的簡単であるというメリットがあります。
株式譲渡の場合、会社の所有する財産、契約などを全て譲渡します。その中には、従業員との雇用契約なども含まれます。そのため、従業員の雇用を守りたいという希望を持つ経営者の方にとって、おすすめの手法です。
ただし、会社の資産や負債なども引き継ぐことになる点が注意点です。手元に残したい資産がある場合、以下で紹介する事業譲渡が向いている可能性があります。また、会社の負債額が多い場合、買い手が見つかりにくい可能性も考えられます。
事業譲渡
会社を売却する際、事業譲渡という方法が用いられる場合もあります。事業譲渡とは、会社の事業の一部、もしくは全部を売却する方法です。
譲渡するものを細かく決定できる点が事業譲渡のメリットです。そのため、不採算事業を分離させる目的で事業譲渡が行われる場合もあります。
その分、株式譲渡などの手法と比較して、手続きは煩雑になるケースが多いです。例えば、雇用などの各種契約を引き継ぎたい場合、一つ一つに対して再契約を結ぶことが必要となります。
また、事業譲渡の場合消費税がかかるなど、税金の負担が重くなるケースがあるため注意が必要です。
10億円以上の会社売却を成功させるポイント
以下では、10億円以上で会社を売却するために心がけたいポイントについて解説します。すでにある程度の規模や価値を持つ会社である点は前提として、以下のようなポイントに注意すれば、10億円での会社売却に近づくことができるでしょう。
自社の価値を徹底的に分析する
自社の価値を分析しておくことで、会社を高く売ることができる可能性があります。
会社の価値としては、保有する資産や営業利益など数値として表しやすいもの以外に、技術力や将来性といった数値に出にくい部分が含まれます。また、自社の弱みとなる部分も分析し把握しておくことは重要です。
自社の得意・不得意領域を分析することで、改善点や伸ばすべき点などが見え、自社の価値を上げることができる場合があります。
加えて、事業の業界における市場調査を行うことも有益です。業界内での自社の位置付けを把握し、競合やマーケットについて知っておくことで、自社が目指すべき方向性が見える場合があります。
参入障壁が高いかどうかを見落としがちが経営者が多いです。参入障壁が高ければ、それだけ競合数も多くなく、市場シェア率の拡大に集中できるからです。自社の強みを抑えるうえで、市場のポジショニングは抑えたいです。
自社の強みを丁寧にアピールする
自社の強みを丁寧にアピールすることで、10億円での会社売却に近づくことが可能です。
アピールポイントを買い手に知ってもらうことで、自社への評価が上がり、結果的に売却価格が上がる可能性があります。
数値には表れにくい自社の長所をアピールすることで、買い手側が気づいていなかった自社の長所を知ってもらえる可能性が上がるでしょう。例えば、人材の教育制度や唯一性のある技術などが有効なアピールポイントになりやすい点です。
タイミングを見て売却する
会社を高く売るため、タイミングを見ることは重要です。一般的に会社を売るのに良いタイミングは、会社の業績が上がっている時です。
業績が良い状態であり、成長が見込まれると判断されれば、高値がつく可能性が上がります。加えて、景気が良いタイミングであれば買い手候補が多くなり、売却の相場が上がることを期待できます。
また、M&Aの手続きには数カ月から1年以上の期間がかかることを念頭に置いておく必要があります。売りたいタイミングから逆算し、早めにM&Aの手続きを始めることをおすすめします。
平均して9か月と言われております。しかし、規模の大きい投資案になると買手も資金繰りがあるので2~3年の長期スパンとなる可能性もあります。
M&A仲介業者を利用する
会社を高く売るためのポイントとして、M&A仲介業者を利用することが挙げられます。M&A仲介業者は、買い手企業を探すマッチングや、交渉のサポート、書類作成の補助などを行ってくれます。
仲介業者を利用することで、広大なネットワークから高く買ってくれる企業を探してもらうことができます。また、交渉をサポートしてもらうことで、売却金額が上がる可能性もあります。
仲介業者に依頼することで手数料がかかってしまいますが、掛かった手数料以上に売却価格を上げることができる可能性もあり、依頼するメリットはあると言えます。
MA仲介会社は数多くの案件の経験があるので、譲渡企業の長所やメリットを見出すプロフェッショナルです。企業概要書の作成は無料でできますので、そこから行うのは良いと思います。
シナジー効果の高い企業に売却する
シナジー効果の高い企業に売却することで、売却金額が上がる可能性があります。企業間のシナジー効果には、仕入れの一本化や販路の共有、内製化によるコスト削減など様々なものが考えられます。
買い手企業に、シナジー効果により互いの業績が向上すると判断してもらうことができれば、企業の評価が上がり、高値がつく可能性があります。
一見、別業種に見える会社であってもシナジー効果を生み出せる場合もあります。例えば、製造業の企業とIT系の企業がITシステムの構築を行い、製造コストを下げることができるといったケースが考えられます。
戦略的な交渉を行う
会社を高く売るために、戦略的な交渉を行うことは大切です。会社の売却価格は、企業価値算出による相場を参考にしますが、最終的には交渉によって決められるためです。
交渉の際に大切なポイントとして、以下のものが挙げられます。
- 事前に条件を挙げておくこと
- 譲れる点と譲れない点を明確に決めておくこと
- 歩み寄る姿勢を示すこと など
例えば、高値で会社を売りたいという目的を第一とする場合、他の点では譲歩する必要が出る可能性があります。
交渉については、あまりメリットを多く出しすぎないことがポイントです。メリットとなる点は、見方を変えればデメリットになることもあり、相手にとって指摘箇所を増やすことになってしまいます。
最大のメリットや強みを伝えることが出来れば、その後はこまめにアピールポイントを必要に応じて出していくことが私のコツです。
売却相手とのコミュニケーションを大切にする
売却相手とのコミュニケーションは、会社を高く売るために大切です。買い手へ与える印象が、売却価格に反映される可能性があるためです。
例えば、自社の抱える負債やトラブルに関することなど、不利となる情報についても隠さず開示することが大切です。重要な情報を隠していたり、嘘をついたりしていたことが後から発覚した場合、交渉において不利な立場になってしまったり、契約が白紙に戻ってしまうリスクがあります。
正直に誠実なコミュニケーションをとり、売却相手との信頼関係を築くことが、高額売却に繋がる可能性があります。
はじめのTOP面談で全てが決まると言っていいほど、相手に印象を与えてしまいます。できる限りの事前準備・ブリーフィングを済ませ望むようにしましょう。
会社の価値売却相場を計算する3つの方法
マーケットアプローチ
会社の売却相場を計算する方法の一つに、マーケットアプローチがあります。マーケットアプローチとは、類似の企業を参考に企業評価を行う手法のことです。
客観性のある情報から企業価値を算定するため、買い手売り手双方にとって納得のいく価格に落ち着く可能性の高い手法です。
例えば、上場している類似企業の株価を基準に評価対象の企業の株価を算定する市場株価法が、マーケットアプローチの代表例です。
類似している事業を行う企業が少ない場合に、適切な数値が出にくいというデメリットがあります。また、独自の長所を持つ企業の価値を正確に算定しにくいという点もデメリットになりうる点です。
コストアプローチ
企業価値を算定する手法の一つに、コストアプローチがあります。コストアプローチとは、企業の保有する資産の時価を基準として企業価値を算定する方法です。
客観的な資料や数値に基づく算定がなされるため、結果への納得感が得やすいというメリットがあります。また、計算が比較的明快である点もメリットです。
コストアプローチの一種である簿価純資産法では、資産から負債を引いた額をそのまま株式価値とします。それ以外に、資産の時価評価を行う時価純資産法と呼ばれる手法や、資産に営業権を足した額を評価価格とする手法もあります。
コストアプローチは将来性などの要素を考慮しないため、売り手にとって不利に働く可能性もある方法です。しかし、営業権を考慮に入れた計算を行う場合もあるため、一概によくない手法であるとは言えません。そういったメリットデメリットについて考慮した上で、状況にあった手法の選択をすることが重要です。
インカムアプローチ
企業価値を算定する方法の一つに、インカムアプローチがあります。インカムアプローチとは、将来的な収益額を念頭に企業価値を算定する手法です。
将来性という、コストアプローチなどの手法では測りにくい要素にフォーカスしている点がメリットです。
例えば、DCF法と呼ばれるインカムアプローチの代表的な手法があります。DCF法は、将来のフリーキャッシュフローの予想額を現在価値に計算し直すことによって企業の評価を行う手法です。
インカムアプローチのデメリットとして、将来性といった不確実な要素に基づく評価を行うため、評価を実施した人によっても結果が変わる場合がある点が挙げられます。
10億円以上で会社売却を成約させた事例
「DMM」と「BANK」の事例
株式会社DMMは、70億円で株式会社バンクを買収することで2017年10月31日に同意したと発表しています。バンクは、自分の持ち物を一瞬で現金に変えることのできるアプリ「CASH」を運営する会社です。
革新的なサービスを提供するバンクを、資金力のあるDMMグループでサポートし、より事業拡大を目指す目的でM&Aが成立しました。
時代のニーズを敏感に汲み取ったアイデアから始まったサービスにより会社の高額売却が達成された例です。
「チェンジ」と「トラストバンク」の事例
株式会社トラストバンクは、2018年11月30日付で株式会社チェンジの子会社化したことを発表しています。トラストバンクは、ふるさと納税サイト「ふるさとチョイス」を運営する会社です。売却価格は、約48億円でした。
チェンジと力を合わせ、より自治体や利用者との関係を深めるためのM&Aであったと発表されています。
早いタイミングでふるさと納税という市場の将来性に目をつけた創業者の先見の明が、会社の高額売却に繋がった例です。
「グリー」と「3ミニッツ」の事例
グリー株式会社は、2017年2月2日に株式会社3ミニッツを買収することを決議したと発表しています。3ミニッツは、動画マーケティングやインフルエンサーマーケティングなどの事業を行う企業です。
インターネット事業に強いグリーのサポートによる更なる成長を目指したM&Aであると発表されています。
売却金額は43億円でした。成長の見込まれる動画広告市場において注目の新規企業が高額売却を達成した例です。
会社の価値を評価額10億円まで高める方法は?
会社の10億円での売却に近づくためにできることの例として、以下のものが挙げられます。
- 営業利益を増やす
- 投資の効率化
- 財務状況の見直し
営業利益を増やすため、不採算事業の見直しやコスト削減などを行うことができます。売り上げを増やし、かつ経費を削減するための方法を考える必要があります。
投資の効率化とは、まず固定資産を有効活用できているか見直すことが含まれます。利益に繋がらない設備を手放すなどの対策を取ると効率化が進む場合があります。
そして流動資産についても見直す必要があります。在庫管理を見直し、不良在庫を減らすことなどが流動資産の効率化に繋がります。
財務を改善するためには、例えば負債を減らすことが挙げられます。まずは財務状況を分析し、自社の課題を把握しておくことが大切です。