- 建設業界は経営者を含めた建設業界の就業者全体の高齢化や人手不足などの影響により、M&Aが増加傾向にある
- 建設M&Aは、後継者問題や人手不足、事業の拡大などの課題解決につながる手法の一つであると言える
- 一方で、M&Aには法律や税金、企業会計などの専門的な知識が必要になる
- 上記に加え、自社に適した相手方の企業を発見する必要がある
- 以上のことから建設M&Aには建設業界に関して豊富な知見を持つM&A仲介業者の利用がおすすめ
M&Aの仲介会社は多数存在し、得意領域も異なることから、複数の仲介会社を比較・検討する必要があります。
複数業者で事前に見積もりを取り、各業者の特徴を把握することで、建設M&Aに失敗しにくくなると言えるでしょう。
どこの仲介業者に頼んで良いかわからない場合には、M&Aの一括査定サービスを利用することで、手間を抑えて複数業者を比較することが可能です。
大きい分類で建設業と言っても、土木業や電気工事、内装業、建設機械リースなど細分類すると様々あります。異なる細分類の会社でも、大きい分類で同じ建設業であれば他業種に比べM&Aによるシナジー効果が得やすく、最もM&Aが盛んな業種と言えます。
建設業界とは?基本情報や特徴を紹介
建設業界に関して、以下の観点から説明していきます。
建設業界の基本情報
建設業とは、土木建築に関する工事の完成を請け負う事業のことを指します。
上記の内容は「建設業法」という法律に定められており、建設業を営む業者のことを建設業者と言います。
また、建設業法では建設業を以下の29種類に分類しており、該当する建設業を取り扱う場合は管轄の都道府県の許可を必要としています。
- 大工工事業
- 左官工事業
- とび・土工工事業
- 石工事業
- 屋根工事業
- 電気工事業
- 管工事業
- タイル・れんが・ブロツク工事業
- 鋼構造物工事業
- 鉄筋工事業
- ほ装工事業
- しゅんせつ工事業
- 板金工事業
- ガラス工事業
- 塗装工事業
- 防水工事業
- 内装仕上工事業
- 機械器具設置工事業
- 熱絶縁工事業
- 電気通信工事業
- 造園工事業
- さく井工事業
- 建具工事業
- 水道施設工事業
- 消防施設工事業
- 清掃施設工事業
- 解体工事業
建設業界の特性・特徴
建設業界の特性・特徴に関して、以下の観点から説明していきます。
公的機関からの許可が必要
建設業を営むには、国土交通大臣または都道府県知事からの許可が必要です。
複数の都道府県にまたがって建設業を営む際には国土交通大臣、一つの都道府県でのみ建設業を営む場合は都道府県知事の許可を得る必要があります。
また、建設業の許可は「一般建設業」と「特定建設業」に分類されており、発注者から直接請け負う契約かどうかとその金額により区分されます。
特定建設業の許可があれば、発注者から直接請け負った4,500万円/件(建築工事業は7,000万円/件)以上の下請契約を締結可能です。
なお、建設業許可の有効期限は5年であり、更新を希望する場合は、期間満了の30日前までに申請をする必要があります。
入札制度で発注先を選定
建設業界では、公共事業の工事を行う際に、担当する業者を入札方式で選定するケースが多いです。
入札のルールや参加する条件は各都道府県によって定められており、条件に満たしていない建設業者は参加できません。
入札方式では、発注者が予定している予算金額の中で、最も安価な価格を提示できた業者が選定されます。
そのため、不当な価格設定や手抜き工事などの問題が発生し、近年は価格以外の能力を審査する「総合評価落札方式」を採用しているケースも増えています。
重層下請構造
建設業を営む会社には、発注者から直接請け負う「総合工事業者」と総合工事業者の下請として工事を受注する「職別工事業業者」の2つが存在します。
総合工事業者は請け負った工事の設計から施工までを一貫して行いますが、総合工事業者が単独で工事するのではなく、専門の分野ごとに分業して工事を進めていくケースが多いです。
その中で、分野ごとの各工事を下請けの業者に委託する際に、下請の業者が次の下請に発注する場合があります。
このように下請けを繰り返していく構造を重層下請構造と言い、建設業界の特徴の一つであると言えます。
建設業界が持つ課題
建設業界が持つ課題として、大きく以下の内容が挙げられます。
- 従業員の高齢化
- 若年層の就業希望者の減少など
近年、従業員の高齢化や若年層の就業希望者の減少により、建設業界全体が慢性的な人手不足に陥っています。
5〜10年後に退職となる見込みの従業員も多いことから、就業者数全体も将来的に大きく減少することが予想されている状況です。
実際に、国土交通省の「建設業の働き方改革の現状と課題」において、建設業就業者のうち55歳以上が約36%(※)まで上昇し、29歳以下が約12%(※)まで減少しています。
若年層が減少している理由として労働環境の過酷さが挙げられており、国土交通省の同資料によると、年間の総実労働時間が他産業と比べ360時間以上長くなっています。
若年層が減っていくと、建設業の先細りに加え、建設業の技術を継承できない事態に陥ってしまうため、早急に解決が必要な課題であると言えるでしょう。
(※参照:国土交通省「建設業の働き方改革の現状と課題」)
大手資本の傘下に入ることで、人材採用が強くなる場面が多くなります。その他、現場のエリアが近ければ人員を交代させることなど効率的に人材配置することもできるためM&Aで課題解決できることがあります。
建設M&Aの現状・件数と今後の動向
M&A仲介業の大手企業であるストライクによると、2022年の上場企業の建設M&Aの発表件数は38件であり、2013年以降で2番目に多い(※)状況です。
建設業界のM&Aが増加している原因として、以下の内容が挙げられます。
- 人手不足
- 他業種との相乗効果
先述の通り、建設業界では人手が不足していることから、人材の確保のためM&Aを行うケースが増加しています。
中小企業においては、経営者の高齢化および後継者不足による事業承継が増加傾向にあり、建設業界のM&Aを増加させる要因の一つになっていると言えるでしょう。
また、工事現場では様々な職種の業者が連携する必要があることから、同業以外の会社を買収することによる相乗効果が生まれやすいです。
以上のことから、今後も建設業界のM&Aが活発になる可能性が高いです。
(※参照:PRタイムズ)
一つの建設現場には、建設業の中でも様々なプロフェッショナルや異なる業界の連携によって、建設や施工が進んでいるので、親和性が高い業種であれば異業種でも関心を持つ会社が多数います。
建設M&Aの事例を紹介
建設M&Aの事例を以下の表にまとめました。
第一設備工業 | 北和建設 | 大林道路 | 丸彦渡辺建設 | 鳥海建工 | ・アンビエントホールディングス ・株式会社ハウスインハウス |
---|---|---|---|---|---|
エリア | 東京都 | 京都府 | 東京都 | 埼玉県 | 香川県 |
概要 | 変化に柔軟に対応できる企業づくりのため | 事業拡大のため | 人材確保・生産性の向上のため | 重点取組事業の体制強化のため | 効率的な事業運営を実現するため |
譲受側建設業者 | 清水建設 | 矢作建設工業 | 大林組 | ナガワ | ハイアス・アンド・カンパニー |
上表の通り、建設業界では幅広い目的でM&Aが行われています。
買い手側のM&Aの目的としては、事業拡大や経営の効率化、人材の確保を目的としているケースが多いと言えるでしょう。
一方で東京商工リサーチの調査によると、売り手側のM&Aの目的として、後継者不在や従業員の雇用の維持、事業の成長のために検討したという意見が数多く見受けられました。
建設業界で働く人の高齢化が進んでいることから、今後も建設業界のM&Aは増加していく可能性が高いと言えます。
建設M&Aのメリット・デメリット
建設業界でM&Aをするメリット・デメリットを紹介していきます。
メリット
- 後継者不在問題の解決できる
- 従業員の雇用を継続できる
- 会社の倒産・清算を回避できる
- 人手不足を解消しやすい
- 建設設備や備品(固定資産)を資金化できる
建設業界でM&Aをする売り手側のメリットとして、建設業者の後継者不在問題を解決できる点が挙げられます。
後継者がおらず会社を清算しなければならない場合でも、M&Aをすることで事業を継続できることに加え、社員の雇用を継続することが可能です。
また、買い手側のメリットとしては、人手不足を解消しやすいことが挙げられます。
先述の通り建設業は人手が不足していることから、M&Aをすることで人材を確保しやすくなると言えます。
建設機械や、建設関係の備品は中古市場でも価値が落ちないものがあります。そういったものの現金化という意味でも、M&Aの時価評価である程度、含み益が出る可能性がございます。
デメリット
- 買い手が必ず見つかるとは限らない
- 従業員の雇用条件が変更される恐れがある
- 取引先との関係性が悪化する可能性がある
建設業界でM&Aをする売り手側のデメリットとして、買い手が必ず見つかるとは限らない点が挙げられます。
買い手が見つからなければM&Aが成立しないため、思うようにM&Aが成立しないことがあるでしょう。
また、買い手側の企業の判断により、従業員の雇用条件が変更される恐れがあります。
従業員が不利になる条件へと変更される場合もあることから、従業員にとってはデメリットになりうる事項の一つです。
経営者が突然変わることで取引先が不安を感じる場合もあり、M&Aをきっかけに取引先との関係が悪化してしまう恐れがあります。
事前にM&Aをする旨を伝えておき、取引を継続できるような関係作りをしておくことが重要です。
建設業界のM&A相場
建設業界のM&A相場に関して、以下の観点から説明していきます。
企業の評価方法
M&Aの価格は、売り手側の企業の資産や財務状況、建設業界の市場、当事者間の契約内容によって異なるため、一概には言えません。
ただし、どの場合においても売り手企業の企業価値を算出して価格を算出していくケースが多いです。
建設業の会社の企業価値を評価する方法について、大きく以下の方法が挙げられます。
評価方法 | 概要 |
---|---|
マーケットアプローチ | 同業の会社の株価や過去の事例をもとに企業価値を算出する方法 |
インカムアプローチ | 将来的に獲得することが期待される収益の予測をもとに企業価値を算出する方法 |
コストアプローチ | 貸借対照表の純資産をもとに企業価値を算出する方法 |
上記の中から、各事例に最も適した方法を選択して利用するケースが多いです。また、複数の方法を併用する場合もあります。
私の経験上、建設業はコストアプローチかマーケットアプローチが採用されることが多いです。将来的にM&Aを考えるのであれば、年間の事業利益や、利益留保は進んで行うことを推奨します。
建設業界における企業価値の評価ポイント
建設業界における企業の評価ポイントとして、以下の内容が挙げられます。
- 財務の健全性
- 安定した取引先の確保
- 各審査の評点が高い
- 人材が豊富
- 専門的な技術を持っている
- コンプライアンスを重視している
財務が健全であることや、安定した取引先を確保していることは、高い評価を受けやすくなる重要な要素の一つであると言えます。
また、建設業界では公共事業の入札に参加するために「経営事項審査」と「競争参加資格審査」の2つの審査を受ける必要があります。
審査の評価が高いほど、大規模の公共事業に参入しやすくなるため、M&Aにおいても高い評価を受けやすくなるでしょう。
また、先述の通り建築業界では人手が不足していることから、人材を豊富に抱えている点も高評価のポイントであると言えます。
建設M&Aをする際の注意点
建設業界の特性・特徴に関して、以下の観点から説明していきます。
経営管理責任者がいるか確認しておく
建設M&Aをする際は、経営管理責任者がいるか確認しておきましょう。
建設業法第7条において、建設業許可を得るには経営管理責任者を設置することが義務付けられています。
経営管理責任者の配置方法には以下の2つの方法があります。
- 経営管理責任者のみ配置
- 常勤役員とそれを直接補佐する者を配置
一般的には経営管理責任者のみを配置するケースが多いようですが、状況によって異なるため、自身がどちらに該当するか事前に確認しておくことをおすすめします。
建設業許可の承継方法に注意する
建設M&Aをする際は、建設業許可の承継方法に注意してください。
建設業許可は、利用するM&A手法により承継するための方法が異なります。
中小企業で用いられるM&A手法には、大きく以下の2つの方法が挙げられます。
- 株式譲渡
- 事業譲渡
株式譲渡の場合は、買い手側は特別な手続きなくそのまま建設業許可を継承することが可能です。
一方で、事業譲渡で建設業許可を引き継ぐ際には事前の手続きが必要となるほか、従業員との雇用契約も再度締結する必要があります。
2019年以前は、建設業許可の引き継ぎに時間がかかることから、空白期間と呼ばれる建設業を取り扱えない期間が発生する事例がありました。
しかし、2020年に建設業法の改正(第17条の2)が行われたことから、現在は買い手側が特定の要件を満たしている場合には、空白期間なく建設業許可を継承できます。
粉飾決算がないことを確認する
建設M&Aをする際は、粉飾決算がないことを確認しましょう。
建設業界において、決算は「建設業会計」という建設業独自の会計制度で行われています。
建設業では、建築物の完成・引き渡しに年単位の期間が発生するケースも多く、一時的に工事にかかる費用を資産計上することが必要です。
そのため、帳簿上で記される資産が大きくなりやすく、不適切な資産計上が行われる可能性があります。
契約前に決算状況を丁寧に確認しておくことが重要です。
建設M&Aに必要な仲介手数料|価格はいくらくらい?
建設M&Aに必要な仲介手数料を、日本M&A総研を例に下表にまとめました。
相談料 | 無料 |
着手金 | 無料 |
中間報酬 | 無料 |
成功報酬(譲渡対価・移動総資産ベースレーマン方式) | 1~5% |
実例として、株式価格5億円の建設会社を売却した場合には、成功報酬額として2,500万円の仲介手数料が発生します。
建設業でM&Aをする際の流れ
- M&Aの仲介会社と面談する
- 仲介会社が提示する企業から相手方となる会社を選ぶ
- 相手方の会社と面談・交渉する
- 基本事項に関する契約を締結する
- 財務・法務等の調査をする
- 最終契約を結ぶ
建設業界でM&Aをする流れを上記にまとめました。
スムーズに相談が進むよう、仲介会社に相談する前にM&Aの目的や自社の強みを明確化しておきましょう。
強みを相手方へ丁寧にアピールすることで、自社を選択してもらいやすくなると言えます。
また、相手方の企業と面談をする前には、専門家と相談をして譲歩できる点とできない点を洗い出しておくことで、交渉を進めやすいです。
建設M&Aに関するよくある質問
建設業のM&Aには何年かかる?
建設業界でM&Aを行う場合、最低でも半年〜1年がかかるケースが多いです。
ただし、M&Aの規模や相手が見つかる期間によっても異なるため、あくまで大まかな期間である点に注意してください。
建設業で売れやすい会社の特徴は?
建設業で売れやすい会社の特徴として、以下の点が挙げられます。
- 財務の健全性が高い
- 安定した取引先を持っている
- 各審査の評点が高い
- 豊富な人材を抱えている
- 専門的な技術を持っている
- コンプライアンスを重視している
上記の条件を満たすと高い評価を受けやすく、買い手が見つかりやすいと言えます。
建設業許可を継承できない場合はある?
建設業許可を継承できない事例として、以下のような事例が挙げられます。
- 一般建設業の許可を持つ建設業者が、同一業種の特定建設業の許可を継承する
- 特定建設業の許可を持つ建設業者が、同一業種の一般建設業の許可を継承する
上記のような事例では、一般建設業の許可を持つ建設業者側が事前に廃業しておくことで、問題なく継承することが可能です。
【2024年最新】建設業界のM&Aの事例を紹介
ここでは、建設業界のM&Aの最新事例を紹介していきます。
2024年、イチケンは、土木工事などの建設業を営む片岡工業の全株式を取得し、子会社化しました。
イチケンは商業施設の企画や設計、総合建設業を営んでいます。
これにより、イチケンは片岡工業のノウハウを取り入れ、企業価値の向上を図ります。
出典:M&A総合研究所