- 医療法人M&Aは医療法人の類型(持分なし・ありなど)によってM&A手法が異なる
- 医療法人M&Aは、後継者不足や地域医療の維持などの問題を解決できる可能性がある
- しかしM&Aの実施には法的・会計的専門知識が必要になるほか、行政とのやり取りが必要で複雑な手続きとなる
- そのため医療法人M&Aには専門的知識を持つM&A仲介業者を利用することがおすすめ
なお、M&Aの仲介業者は多数存在しており、得意業界やエリアが大きく異なります。
そのため、どの会社に依頼するのかでM&A成功や売却額に大きく影響しやすいことから、複数の会社で見積もりをとってみるのがおすすめです。
医療法人M&Aとは?その特徴を紹介
以下では、医療法人のM&Aについて、特徴や概要を解説します。
医療法人の定義
医療法人とは、病院や診療所、介護施設などを開設することを目的として、医療法39条に基づき設立される法人のことです。
1 病院、医師若しくは歯科医師が常時勤務する診療所、介護老人保健施設又は介護医療院を開設しようとする社団又は財団は、この法律の規定により、これを法人とすることができる。
2 前項の規定による法人は、医療法人と称する。
出典:厚生労働省
一般の株式会社と違い、社団・財団医療法人には株式が存在しないという特徴があります。また、医療法人は非営利性のものであり、出資者への配当はできません。
医療法人の類型
医療法人は大きく分けて、「社団たる医療法人」と「財団たる医療法人」の2つに分けられます。
医療法人の内大多数を占めるのが、社団たる医療法人です。社団たる医療法人は「出資持分のある医療法人」と「出資持分のない医療法人」の2種類に分けることができます。
「出資持分がある」とは、出資者に財産権が認められているという意味です。一方で、出資者がその医療法人に対して財産権を持たない場合は「出資持分がない」という言い方をします。
現在では出資持分がある医療法人を設立することはできませんが、出資持分ありの医療法人が残っていることが多いです。
また、財団たる医療法人とは、個人・法人が財産を拠出して設立した場合の医療法人です。財団医療法人とも呼ばれます。財団医療法人の割合は少なく、ほとんどが社団たる医療法人となります。
医療法人のM&Aは、出資持分の有無が手続きに影響します。それぞれで利用できるスキームが異なることがありますので、M&Aを検討する際は専門家の意見を仰ぐことをおすすめします。
医療法人M&Aの特徴
医療法人のM&Aは、株式会社のM&Aとは違う点が多く、注意が必要です。
まず、医療法人には株式がないため、株式交換や株式移転などのスキームは使うことができません。
そのため、医療法人のM&Aの際には、出資持分の所有者を変更する「出資持分譲渡」という手法を用いる場合があります。医療法人のM&Aのスキームについて、詳しくは本記事下部で解説します。
医療法人のM&Aの際には、医療法が関係するなど特殊な点が多いため、医療関係のM&Aをに詳しい仲介会社などに相談することをおすすめします。
医療法人のM&Aは出資持分の有無によって手続きが変わってくるところがポイントです。理事など連絡がとれず、M&Aのディールが進まないこともございます。まずは、自身の組織形態の場合どのようにM&Aを進めるべきか現状把握という意味でも相談した方がいいでしょう。
医療法人M&Aを取り巻く環境|医療法人譲渡の現状は?
近年、経営に問題を抱えた医療法人がM&Aを行うケースが増えています。医療法人がM&Aに至る原因としては、以下の通りです。
- 後継者不足のため
- 業界シェアを広げるため
- 資金調達のため
- 地域医療を存続させるため
2021年に行われた帝国データバンクによる調査では、病院・医療関係の後継者が居ないケースは70%を超えており、後継者問題が深刻であることが伺えます。
また、多くの医療法人では少子高齢化に伴った組織の再編も発生しており、M&Aによって解決を目指す場合が多くなっている状況です。
他には、既存の患者を守るためにも、M&Aが必要とされるというケースも見られます。さまざまな要因で医療法人のM&Aが進んでいることがわかるでしょう。
医療法人M&Aにおけるシナジー効果では、同地域で患者の紹介であったり、全国的に病床数を拡大することでのリスク分散など、各譲受企業によって目的は様々です。仲介会社によっては、どの譲受企業がどんな目的をもって買収をすすめているのかまとめているところがほとんどなので、意見を参考にしてみるのも良いでしょう。
医療法人M&Aのスキームを紹介|病院のM&A手法は?
以下では、医療法人M&Aのスキームについて紹介します。
それぞれのスキームについて知っておくことで、病院がM&Aを行う際の手順をイメージしやすくなります。
持分なし医療法人のケース
持分のない医療法人をM&Aする際には、「合併」「事業譲渡」などのスキームが用いられます。
2つの概要に関しては以下の通りです。
スキーム | 概要 |
---|---|
合併 | 2つ以上の医療法人が、法的手続きにより1つの医療法人となること |
事業譲渡 | 医療機関の開設者を譲渡側から譲受側の医療法人に入れ替える |
法人格売買 | 資産・財産の承継はせず法人格だけを売買する |
合併に関しては、譲受側の法人が譲渡側の法人を引き継ぐ「吸収合併」と、譲渡側・譲受側の2つの法人が消滅し新たな法人を設立する「新設合併」の2種類があります。
合併後の法人格については譲渡側・譲受側双方の法人格の類型に依存します。
持分のない医療法人の場合、対価として退職金が支払われるケースが一般的です。
持分なし医療法人は、まだ設立から日が浅いことが多く、M&Aされる事例が比較的少ないです。持分なし医療法人のM&Aについては、法律を熟知している専門家に依頼すると良いでしょう。
持分あり医療法人のケース
出資持分のある医療法人のM&Aの際には、「出資持分の譲渡」という形でM&Aが行われるケースが一般的です。また、「合併」や「事業譲渡」などのスキームが用いられることもあります。
出資持分の譲渡とは、譲渡側法人の出資持分を譲受側に譲り、社員の交代を行うスキームです。
出資持分の移譲だけでは経営権を譲渡することはできず、社員及び役員を入社させる必要があります。
手続きは複雑で、手違いが生じると大きな問題に発展するケースもあるでしょう。持分あり医療法人のM&Aに関しても、専門家に意見を仰ぐことをおすすめします。
出資持分の有無や組織形態を把握するために、M&A仲介会社との相談の際は決算書の他に、「定款」も準備すると話が円滑に進みます。
医療法人M&Aの過去の事例を紹介
以下では、医療法人M&Aの過去の事例を紹介します。
譲渡側医療法人 | 医療法人川崎病院 | 医療法人翔洋会 | 医療法人湯池会 | 日本郵政株式会社 | 社会医療法人社団木下会 |
---|---|---|---|---|---|
エリア | 千葉県 | 福島県 | 沖縄県 | 神奈川県 | 千葉県 |
概要 | 後継者不在のため事業を継承 | 地域医療の存続のため | スタッフの高齢化や後継者不足の解消 | 病院事業の赤字解消を目的として | 経営の合理化と法令順守・統治強化を目的とした吸収合併 |
ヘルスケアアクセラレーター株式会社 | 医療法人竜山会 | 公益財団法人ときわ会・医療法人ときわ会 | 医療法人沖縄徳洲会 | 社会福祉財団法人恩賜財団済生会グループ | 医療法人沖縄徳洲会 |
医療法人のM&Aには、様々な目的があることが上記の表から分かります。
上記の目的以外にも、病院の経営安定化やシェア拡大のためにM&Aが行われるケースが増えています。
医療法人のM&Aは目的に応じて利用されるスキームが異なり、さまざまな法律が絡む複雑な業務となります。
医療法人のM&Aを検討する場合は、過去の実績が蓄積されている仲介業者を選ぶと良いでしょう。
医療法人M&Aをすることのメリット・デメリット
以下では、医療法人のM&Aを行うことのメリットやデメリットについて解説します。
メリット
病院の運営を存続できる
医療法人のM&Aには、病院の運営を存続できるというメリットがあります。
もし病院が廃院となってしまった場合、その地域に必要な医療の提供が滞ってしまう可能性があります。
患者側にとっても、より遠くへの通院が必要になる、治療途中で主治医が変ってしまうなどの悪影響があることが考えられます。
M&Aにより、資金問題や後継者問題が解決できると廃院を避けることができるでしょう。
雇用しているスタッフの働き先を用意できる
医療法人のM&Aには、雇用しているスタッフの働き先を用意できるというメリットがあります。
M&Aのスキームによっては、その病院で働いているスタッフの雇用がそのまま引き継がれる場合があります。
とりわけ法人譲渡の場合、雇用契約がそのまま引き継がれるため、雇用側にとってもスタッフ側にとっても手間やストレスが少なく、メリットが大きいと言えます。
現状の物件を負担少なく手放せる
医療法人のM&Aには、現状の物件を負担少なく手放せるというメリットがあります。
もし廃院となってしまった場合、病院の建物をどうするかという問題も生じることになります。
M&Aによって廃院を避けることができれば、建物の解体や土地の原状回復が必要なくなるため、負担を少なく問題を解決できます。
また、新たな法人の出資を受けることで現状の建物・設備の修繕費や、新たな資産への投資が可能となることもあります。
デメリット
手続きの期間が長期間になりやすい
医療法人のM&Aには手続きの期間が長期間になりやすいというデメリットがあります。
医療法人のM&Aの手続きには、1年以上掛かるケースが多いです。買い手となる法人を探すために、数カ月から1年以上かかる場合もあります。また、その後の交渉から契約までの手続きには最短でも半年程度かかります。
これらのことを踏まえると、手続きの期間が長期間になることが想定されるでしょう。M&Aの成立や後継者探しを早めに完了させたいなら、できるだけ早く準備を進める必要があるでしょう。
しかし、これらの業務は本業をしながら片手間で行うには複雑で難しいものとなります。買い手を探したり、交渉するなどの手続きを行ったりする際には、専門家に任せることをおすすめします。
あくまで、株式会社のM&Aに比べればという話で、案件によっては早期成約(3か月ほど)の可能性もございますので、一度ご相談してみるといいでしょう。少なからず早めの相談をした方が良いことが多いです。
専門的な知識が必要になる
医療法人のM&Aには専門的な知識が必要になるというデメリットがあります。
医療法人のM&Aは、譲渡側と譲受側双方の医療法人の類型によって、スキームが異なります。また、M&Aに関する知識のみでなく、医療法をはじめとした法律に関する知識や会計に関する知識も求められます。
M&Aに際して、これらの知識を1から学ぶのには時間がかかる場合が多いでしょう。早めに専門家に相談し、的確なサポートを受けることをおすすめします。
医療法人M&Aで注意しておきたい5つのポイント
スキームの検討には時間をかける
医療法人M&Aで注意しておきたいポイントとして、スキームの検討には時間をかけるという点があります。
選択できるスキームは、医療法人の類型によっても異なる場合があります。選択するスキームによって税金の負担額が異なるため、スキームの選択には注意が必要です。
また、M&Aを行う目的によって最適なスキームが異なる場合もあります。M&Aの目的や税制を踏まえてスキームの選択をすることが想定されるので、専門家に意見を仰ぐのが一般的です。
社員のM&A後の雇用関係を維持する
医療法人M&Aで注意しておきたいポイントとして、社員のM&A後の雇用関係を維持するという点があります。
M&A後の職場環境の変化や待遇の変化によって医師・看護師がやめてしまう場合があります。そのため、M&A後にさらなる人手不足に陥らないための対策が必要です。
M&Aについてスタッフに伝える際に、スタッフの不安やストレスを少なくする対策が必要となります。
伝え方やタイミングが重要となるため、綿密に調整を行うことが重要となるでしょう。従業員に対して誠意ある対応や説明が必要となります。
行政・自治体とのやり取りに気を配る
医療法人M&Aで注意しておきたいポイントとして、行政・自治体とのやり取りに気を配るという点があります。
医療法人のM&Aには、さまざまな行政との手続きが必要となります。例えば保健所に廃止届・開設届を提出するほか、厚生局にも種々の申請が必要となります。
そのため、行政や自治体とのやり取りが多くなり、良い関係性を保つことが重要です。
加えて、自治体からの補助金を受けている場合、返還が求められる可能性もあります。M&Aの前に確認しておくことをおすすめします。
医療法人を専門に行っているM&A仲介業者であれば、行政とのやり取りや補助金についての経験が豊富なため、円滑に進めることができます。
複数の仲介業者を比較検討する
医療法人M&Aで注意しておきたいポイントとして、複数の仲介業者を比較検討するという点があります。
仲介業者によって仲介費用、担当者の知識量などが異なります。事前に比較をし、自社の費用予算に見合うのか、良いマッチング相手を探す力があるのかといったことを見極めることが大切です。
また、医療関係のM&Aに強い業者を選択することにより、的確なサポートを期待できます。そのような仲介業者の場合は安心感を持ってM&Aの手続きを行うことができるでしょう。
仲介業者探しにはM&Aの一括見積サイトを利用するのもおすすめです。医療法人のM&Aに強い業者を比較検討できるほか、自社の売却価格を大まかに把握することができるでしょう。
交渉は誠意を持って対応する
医療法人M&Aで注意しておきたいポイントとして、交渉は誠意を持って対応するという点があります。
契約後のトラブルを避けるため、売り手側は買い手側や仲介業者に対し、ネガティブな情報も隠さず伝えることが重要です。
以下ではM&A交渉の際に伝える必要のある情報の例を挙げます。
- 医療法人の業績、財務状況
- 院内の人間関係
- 抱えている患者とのトラブル など
伝えにくい点をできるだけ早く正確に伝えることで、交渉相手への誠意を見せることができます。
反対に交渉相手にとってマイナスな情報を隠しておくと、譲渡直前になって発覚したときに交渉が決裂してしまう場合もあるため、注意が必要です。
医療法人を売却する際の価格相場は?
医療法人を売却する際には、譲渡側の医療法人の価値評価額を基に売却価格が決定されます。
医療法人の価値評価基準には、様々なものがあります。一例として、医療法人の「時価純資産額」と「営業権」を併せた金額を価値評価額として扱う場合があります。営業権とは、集客力や認知度などの収益を生み出す形のない財産に対する評価額のことを指します。
医療法人の具体的な売却価格は、非公開となっている場合が多いです。また、各法人の状況によっても売却価格は大きく異なるため、一概にはいくらと言うことはできません。
そのため、売却した際の具体的な価格を知りたい場合、仲介業者に見積もりを依頼することをおすすめします。
なお、仲介会社は複数社に依頼することがおすすめです。見積額を比較することで、高い価格を付けた仲介業者を選ぶことができるでしょう。
しかし、複数の仲介業者に見積依頼をするのは手間であるため、一括見積サイトの利用をおすすめします。
医療法人M&Aでかかる仲介手数料はいくら?
以下では、医療法人M&Aでかかる仲介手数料について、M&A総研の場合を例に解説します。
相談料 | 無料 |
着手金 | 無料 |
中間報酬 | 無料 |
成功報酬(譲渡対価・移動総資産ベースレーマン方式) | 1~5% |
上記の費用体系で実際に発生する費用例を紹介します。例えば、病院を15億円で売却した場合は、成功報酬として合計で5,500万円の手数料が掛かります。
M&Aの際の手数料は仲介業者によって異なるため、注意が必要です。
医療法人M&Aに関するよくある質問
合併後の法人の類型はどうなる?
合併後の法人の類型は、合併前の法人の類型によって異なります。
譲渡側、譲受側双方もしくはどちらかの法人が、持分なし社団であった場合、合併後の法人類型は持分なし社団となります。
譲渡側、譲受側双方の法人が持分あり社団であり、合併後も法人が存続する場合には、持分あり社団となります。
新たに法人を設立する場合には、法律により持分なし社団しか設立することができません。
医療法人M&Aにかかる期間は?
医療法人M&Aにかかる期間は1年以上となる場合があります。買い手を見つけるまでに数カ月から1年以上かかってしまうこともあります。
また、交渉から契約までの手続きには一般的に半年程度期間を要します。譲渡を考えている場合はできるだけ早めに準備することが大切です。
売れやすい医療法人の特徴とは?
一般に買い手が付きやすく、売却価格が高くなりやすい医療法人の特徴には以下のものがあります。
- 業績が好調である、成長が見込める
- アクセスの良い立地である
- 建物や設備が新しい
- 人材の確保が容易である など
医療法人の最適なM&Aのタイミングとは?
医療法人のM&Aの良いタイミングは、経営者のMAの目的やそれぞれの法人の状況によって異なります。M&Aを行う目的によっても、良いタイミングは変わります。
もしM&Aによって利益を得たいと考えているなら、医療法人の経営が上手くいっているタイミングでM&Aを行うことがおすすめです。そうすることで、買い手が見つかりやすくなり、売却価格も高くなる可能性があります。
医療法人売却時の税金は?
医療法人売却時の税金として、譲渡所得に対して所得税が課税されます。
出資持分のある医療法人のM&Aの場合、出資持分を譲渡した際の譲渡所得に対し、20.315%の所得税が課税されることとなっています。
オーナーに対し退職金の形で対価が支払われた場合、その退職金に対して所得税が課税されることになります。
事業継承できなかった医療法人はどうなる?
事業継承できなかった医療法人は解散することになります。後継者不足で次の経営者がいない場合、解散・廃業するしかない場合もあります。
医療法人が解散するためには、都道府県への届け出や認可が必要になります。
医療法人の解散には、手続きが多く手間がかかるというデメリットがあります。加えて、医療法人の解散は地域社会にとっても損失となるため、解散となる前にM&Aについて検討することをおすすめします。
【2024年最新】医療法人業界のM&Aの事例を紹介
ここでは、医療法人業界のM&Aの最新事例を紹介していきます。
新潟県のNSGグループは、同じく新潟県の中条中央病院を運営する医療法人社団協生会を買収しました。
これにより、NSGグループは、中条中央病院とともに、地域住民や周辺施設との連携強化を図る方針です。