- 調剤薬局業界はかかりつけ薬局の促進や薬価・調剤報酬の改定から、M&Aが増加傾向にある
- 調剤薬局M&Aは、経営状況悪化や後継者不足、地元医療の促進などの問題を解決できる手段の一つであると言える
- しかし、M&Aの実施には、専門的な知識と相手方を見つけるネットワークが必要になることから、専門家のサポートが必要
- 以上のことから調剤薬局M&Aには専門的知識と豊富な実績を持つM&A仲介業者を利用することがおすすめ
なお、M&A仲介サービスを提供している仲介会社は複数存在し、得意とする分野・業界も会社によって異なります。
M&Aが成功するかどうかは仲介会社によって大きく左右されるため、複数の仲介会社で見積もりを取り、比較・検討することが重要です。
忙しく複数の仲介会社で見積もりを取る余裕がない場合は、M&A仲介会社の一括見積もりサービスの利用をおすすめします。
薬局業を営んだことがある人ならば、M&A仲介会社からの連絡は受け取ったことがあるはずですが、自身で情報を集めに行った方がより有益な情報が手に入る傾向にあります。
調剤薬局のM&Aとは?業界の概要や特徴を紹介
調剤薬局業界に関して、以下の観点から説明していきます。
調剤薬局業界の概要・定義
調剤薬局業界とは、薬剤師が常駐し、健康保険法のもと医師の処方箋にしたがって調剤・処方する薬局のことを指します。
処方箋に基づいて正確な調剤をする必要があるため、調剤を行える適切な環境があることも定義の一つとされています。
調剤薬局を営むには保健所や地方の厚生局に申請し、許可を得ることが必要です。
また、設置している各店舗には薬剤師に加え「管理薬剤師」という店舗の責任者をおく必要があります。
調剤薬局業界の特徴
調剤薬局業界は、調剤に使用する薬を卸売業者や製薬会社から仕入れ、顧客に販売することで収益を得るビジネスモデルです。
調剤薬局の収益は、薬の販売額から原価を差し引いた分の利益と調剤報酬からなります。
調剤報酬とは、調剤に必要な技術に対する対価である調剤技術料や、薬を適切に管理する薬学管理料などを含む、薬局の重要な収入源の一つです。
従来は安定して集客できるように病院の近くに店舗を設けることが最重要課題でしたが、近年は調剤報酬の改定により、以前よりも重要視されにくくなっています。
調剤薬局M&Aを取り巻く環境とは?現状と今後の動向
調剤薬局業界に関して、以下の観点から説明していきます。
調剤薬局M&Aの現況
厚生労働省の調査によると、日本には約6.1万(※)もの調剤薬局があり、約19万人(※)もの人が薬局に常駐薬剤師として働いている状況です。
薬局の規模は常駐薬剤師が約1〜2名の中小規模の薬局が多い(※)です。
人口あたりの薬剤師の数はほかの先進国と比較しても多めであり、その中でも多店舗展開している薬局が増加傾向にあります。
これは、近年大手の薬局やドラッグストアによる中小規模薬局の買収が増加傾向にあるためだと考えられるでしょう。
実際に、全国の薬局のうち20店舗以上展開している会社が約38%(※)、約6〜19店舗が約18%(※)と、全体の約5割以上の会社が6店舗以上を展開していることがわかります。
(※参照:厚生労働省「薬局・薬剤師を取り巻く現状及び薬剤師の資質・薬局の機能向上等に関する国の取組について」)
現在の、調剤薬局のストロングバイヤーは、複数件買収しているところがほとんどなため、M&Aのスピード感は一般的に言われているスピードよりも速い傾向にあります。
調剤薬局M&Aが今後増加していく理由
調剤薬局M&Aが今後増加していく可能性が高い理由として、以下の内容が挙げられます。
- かかりつけ薬局の考え方の促進
- 薬価・調剤報酬の改定による収益減少
- 人手不足・後継者不足の問題
近年は、病院付近の薬局に処方が集中している点を問題視した厚生労働省により「かかりつけ薬局」の考え方が推進されています。
かかりつけ薬局の考え方を実現するためには、顧客・患者へのサービスを充実させるための人材が必要になることから、M&Aを加速させる要因の一つになると言われているようです。
また、薬価・調剤報酬の改定により、従来に比べ薬の販売益や調剤報酬を得にくくなっています。
安定した収益確保のため、M&Aを検討する機会が増えやすくなると言えるでしょう。
会社によっては人手不足や後継者不足の問題を抱えている場合があり、会社の存続のためにもM&Aを選択する場合があるようです。
私は、調剤薬局のM&A件数が減っていっていると考えています。全国的に調剤薬局のM&Aが盛んになってから現在は衰退期であり、バリュエーションが落ちてきているように感じます。将来も下がる傾向にあると思うので、将来的にM&Aを検討している企業は早めの相談をすることを推奨します。
調剤薬局M&Aの事例を紹介
以下では、調剤薬局M&Aの事例を紹介します。
譲渡側薬局 | 株式会社エファー | ・コム・メディカル ・ABCファーマシー |
株式会社アルファーム | 株式会社ファーマシィホールディングス | 有限会社寿 |
---|---|---|---|---|---|
エリア | 埼玉県 | 新潟県 | 茨城県 | 広島県 | 大阪府 |
概要 | 事業拡大のため | 事業規模の拡大と機能強化のため | 事業拡大のため | 会社の持続的な発展のため | 地域おけるネットワーク構築を強化するため |
譲受側薬局 | 株式会社メディカル一光 | 株式会社アインホールディングス | クオールホールディングス株式会社 | 株式会社アインホールディングス | 株式会社ココカラファイングループ |
上記の表より、調剤薬局のM&Aには企業それぞれの目的があることがわかるでしょう。
買い手目線では、事業の拡大やかかりつけ薬局として特定の地域におけるネットワークの構築を目的としているケースがよく見受けられます。
売り手側の目的は公開されていないことが多いですが、背景には後継者の不足や経営難などから会社の継続的な発展のためにM&Aを選択する場合があるようです。
調剤薬局のM&Aを検討する場合は、過去の実績を豊富に持つ仲介会社を選択することをおすすめします。
調剤薬局がM&Aをするメリット・デメリット
ここからは、調剤薬局がM&Aをするメリット・デメリットを説明していきます。
メリット
- 会社を清算することなく事業を継続できる
- 後継者不足の問題を解決しやすい
- 会社を清算した場合に比べ高額で売却できる場合がある
- 事業を拡大できる場合がある
- 人手不足問題を解決しやすい
調剤薬局業界でM&Aをする売り手側のメリットとして、会社を清算することなく事業を継続できる点が挙げられます。
大手の調剤薬局やドラッグストアに買収されることで、経営不振の場合でも事業の再生を目指せる可能性があるでしょう。
また、会社を清算した場合に比べ高額で売却できる場合がある点も、M&Aで売却するメリットの一つです。
大規模企業のグループとなることで事業を拡大するチャンスも得やすくなるほか、後継者がいないことによる会社の清算も防ぎやすくなると言えます。
薬の合同仕入れのように、グループ企業単位で仕入れをすることができるため、仕入原価を抑えることができます。
デメリット
- 雇用条件に変化が発生することがある
- 同業の新規開業に制限がかかる恐れがある
- 経営上の意思決定を自由にできない可能性が高い
調剤薬局業界でM&Aをする売り手側のデメリットとして、雇用条件に変化が発生することがある点が挙げられます。
勤務している薬剤師によっては、新しい労働環境が合わず、不満に感じてしまう場合もあるでしょう。
また、調剤薬局のM&Aでは、契約時に競業避止義務が科されるケースがあります。
競業避止義務とは、会社・事業を売却した後に当該事業行為に関して競合となる事業を行わないことを義務付ける制度です。
M&Aで事業を譲渡する場合、会社法で競業避止義務が発生することが定められているため、会社を売却すると同業の新規開業に制限がかかる可能性が高いと言えます。
M&A後に経営に関わる場合には買収した会社の意思決定が優先されるケースが多く、経営上の裁量が制限されてしまう点も、M&Aのデメリットの一つです。
調剤薬局M&Aの相場・価格
調剤薬局M&Aの相場・価格に関して、以下の観点から説明していきます。
調剤薬局M&Aの価格を決めるポイント
調剤薬局のM&A価格はさまざまな要素を勘案し、買い手と売り手の交渉によって決まることから、一概にいくらになるとは言えません。
調剤薬局M&Aの価格を決めるポイントとしては、大きく以下の内容が挙げられます。
- 技術料と処方箋応需枚数の月額
- 営業権
- 時価純資産価額
調剤薬局において月の売り上げに直結する技術料と処方箋応需枚数は、M&Aにおける重要な評価ポイントであると言えます。
また「営業権」とは、売却後の3〜5年間で獲得が期待できる営業利益の予測金額のことであり、買収することで得られる収益見込みを算出するための重要な要素の一つです。
他業種と同様に、会社の財務状況の健全性も価格を決める際に参照されていることから、時価純資産額も注視されるケースが多いでしょう。
売却価格を知りたい場合は、複数のM&A仲介業者で見積もりを取り比較することで、高い価格を提示してもらえる仲介会社を選択しやすくなります。
M&A仲介会社の一括見積サービスを利用することで、手間を抑えて複数業者の見積もりを取ることが可能です。
薬局の価値の評価方法
薬局の価値の評価方法として、大きく以下の方法が挙げられます。
評価方法 | 概要 |
---|---|
インカムアプローチ | 会社が将来獲得するだろう収益を予測し、企業価値に反映する方法 |
コストアプローチ | 会社の持つ純資産をもとに企業価値を評価する方法 |
マーケットアプローチ | 市場の株価をもとに企業価値を算出する方法 |
薬局の状況や規模に応じて利用する方法が異なり、会社によっては複数の方法を併用する場合があります。
規模の大きい薬局であれば、インカムアプローチやマーケットアプローチを利用するケースが多いです。
一方で、小規模の薬局であれば簡易的なインカムアプローチとコストアプローチを併用して企業価値を算出することが多いと言えます。
例えば事業利益が2000万円ほどであれば、3~4年掛けた6000万円~8000万円が事業価値であり、遊休資産や負債を差引きして、株式価値を算出します。
調剤薬局M&Aをする際の注意点
ここからは、調剤薬局M&Aをする際の注意点を説明していきます。
調剤薬局の立地だけで選定しない
調剤薬局業界の買収先を選定する際は、調剤薬局の立地だけで選定しないよう注意しましょう。
厚生労働省が2015年に発表した「患者のための薬局ビジョン」では、立地ではなく患者へのサービスで選ばれる「かかりつけ薬局」の増加を目指すことを発表しています。
そのため、丁寧な服薬の指導や24時間対応など、患者のニーズを満たす取り組みを行う薬局が評価されるような規定へと変更されています。
一方で、取り扱っている処方箋が一つの医療機関に偏っていたり、かかりつけ薬局の条件を極端に満たしていない場合は、報酬減額の対象となりうるため注意が必要です。
従来のように、病院に近い薬局ほど集客力があり収益を得やすいというモデルから変化が起きている点を認識しておきましょう。
薬剤師との雇用関係を維持できるよう注意する
調剤薬局業界の買収先を選定する際は、薬剤師との雇用関係を維持できるよう注意しましょう。
先述の通り、近年の薬局業界では患者に寄り添った「かかりつけ薬局」を目指すことが重要視されています。
かかりつけ薬局は24時間の対応や在宅対応、健康相談や服薬の指導など、多岐に渡る業務を求められるため、従来に比べ多様な人材が必要になると言えるでしょう。
M&Aで調剤薬局を買収する場合は、不必要な人材の流出を防ぎ、雇用関係をなるべく維持できるよう注意してください。
また、売り手側は雇用条件の変更により社員が不利益を被らないよう、事前に買い手と相談しておくことが重要であると言えます。
複数の仲介会社・サービスを比較検討する
調剤薬局業界M&Aを検討している場合は、複数の仲介会社・サービスを比較検討しましょう。
複数の仲介会社を比較することで、自身に適した仲介会社に依頼しやすくなり、M&Aが成功する確率を上げやすくなると言えます。
複数の業者を比較する際に確認しておくべきポイントの例として、以下の内容が挙げられます。
- 調剤薬局業界のM&A実績
- 取扱件数の多いエリア・業種
- 仲介手数料
- 税金や法務の専門家がいるか
- 薬局業界の法律・制度に詳しいスタッフがいるか
- 会社の口コミ・評判が良いか
上記の内容を確認しておくことで、信頼できる仲介会社を選択しやすくなるでしょう。
複数業者で見積もりを取る場合は、手間を抑えて見積もりを比較できるM&Aの一括査定サービスの利用がおすすめです。
調剤薬局M&Aに必要な仲介手数料
調剤薬局M&Aに必要な仲介手数料を、日本M&A総研を例に下表にまとめました。
相談料 | 無料 |
着手金 | 無料 |
中間報酬 | 無料 |
成功報酬(譲渡対価・移動総資産ベースレーマン方式) | 1~5% |
例として、複数店舗の調剤薬局を運営する会社を40億円で売却した場合、成功報酬としては1億500万円の仲介手数料が発生します。
仲介会社によって相談料・着手金の有無や手数料率は異なるため、複数業者で比較して選択しましょう。
複数業者で比較することが手間に感じる場合は、一括見積りサービスの利用がおすすめです。
調剤薬局がM&Aをする流れ
- M&A仲介会社のスタッフと面談を行う
- 仲介会社から提示された企業から契約を希望する企業を選出する
- 選択した企業とNDA(秘密保持契約)を締結する
- 相手側の企業と面談・交渉を行う
- デューデリジェンスを実施する
- 最終的に合意した場合は、最終の契約書を締結する
調剤薬局におけるM&Aの流れを上記にまとめました。
手続きフロー自体は他業界のM&Aとさほど変わりなく、約半年〜1年ほどの期間を必要とします。
ただし、相手方の企業が見つからなかったり、手順のいずれかで問題が発覚したりすると、完了までの期間が長引く恐れがあるでしょう。
調剤薬局M&Aに関するよくある質問
調剤薬局M&Aに必要な期間はどのくらい?
調剤薬局M&Aに必要な期間は、事業規模によって異なりますが、概ね半年から1年程度で完了するケースが多いです。
ただし、業績が著しく悪化していたり相手方に求める内容が多い場合には契約相手が見つかりにくいため、時間がかかってしまう恐れがあります。
調剤薬局M&Aの失敗事例はある?
調剤薬局M&Aの失敗事例として、以下のような事例が挙げられます。
- M&A後の経営悪化
- M&A後の人材の流出
M&Aをする前は経営状況が良い場合でも、M&A後に収支が悪化してしまうケースが存在します。
原因はさまざまですが、情勢の変化や経営者が変わったことによる取引の停止などが要因の一つとして挙げられるでしょう。
また、M&A後に雇用条件の変化から人材が流出し、結果としてM&Aが失敗に終わってしまった事例も存在します。
M&A後に雇用している薬剤師が離職してしまわないよう、事前に買い手と売り手の間で相談しておくことが重要です。
【2024年最新】薬局業界のM&Aの事例を紹介
ここでは、薬局業界のM&Aの最新事例を紹介していきます。
2020年、ココカラファインは神奈川県で調剤薬局を2店舗運営する薬宝商事の全株式を得て、完全子会社化しました。
これにより、ココカラファインは、神奈川県内のヘルスケア事業を推し進める方針です。
出典:M&A総合研究所