M&Aの種類・スキームを比較!各手法や方法についてわかりやすく紹介
本記事のまとめ
  • M&Aの種類には買収・合併・分割などがある
  • M&Aの目的やマッチング相手との関係によってM&Aの種類の使い分けは異なる
  • そのため自社のM&Aにあった種類の方法を選択することが重要
  • 自社の状況に応じたM&Aの種類の使い分けについてはM&A仲介業者に相談することがおすすめ

なお、M&Aの仲介業者は多数存在しており、自社の業界に強い業者とそうでない業者が混在しています。

そのため、どの会社に依頼するのかでM&A成功や売却額に大きく影響しやすいことから、複数の会社で見積もりをとってみるのがおすすめです。

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M&Aのスキーム・手法とは?わかりやすく解説!

M&Aとは、企業間の吸収や合併を意味するもので、その際に使うことのできる手法(スキーム)は複数種類あります。

それぞれの手法にメリットやデメリットがあり、状況に併せて適切なものを選択する必要があります。

M&Aを行う際に、どの手法が向いているかについては、M&Aの専門家であるM&A仲介会社に相談しながら決めることをおすすめします。

山本正樹
山本正樹/M&Aアドバイザー【記事監修者】

M&Aスキームは、候補先とのマッチング後に調整していくものなので初期段階ではM&Aスキームを気にせずM&A仲介会社に相談していただいて問題ございません。

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M&Aの種類についてスキームごとに解説

「M&A」は、狭義的なものと広義的なものの2種類の意味がある言葉です。M&Aのスキームは、それぞれ狭義的な意味のM&Aにおけるスキームと、広義的な意味のM&Aにおけるスキームの2種類に分けられます。

以下では、M&Aという言葉の狭義・広義の違いや、それぞれにおける代表的なスキームについて解説します。

M&Aの種類

狭義のM&A

狭義的な意味でのM&Aという言葉は、会社や事業の移転を伴う取引を指して用いられます。一般的にM&Aという場合には、この狭義でのM&Aを指す場合が多いでしょう。

狭義でのM&Aの際に用いられる手法には以下のものがあります。

  • 買収
  • 合併
  • 会社分割
  • 事業譲渡

本記事下部にて、それぞれの手法について詳しく解説します。

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広義のM&A

広義的な意味合いでM&Aという言葉を用いる際には、経営権の移動を伴わないものを含めた資本提携を指します。広義のM&Aに含まれる手法には、株式の持ち合いや合弁会社設立などがあります。

複数の企業が資本の移動を伴わずに協力関係を築くことは、業務提携と呼ばれます。業務提携は、一般的にはM&Aに含まれません。

買収|国内におけるM&Aの一般的な手法

M&Aの手法である買収は、以下のように分類されます。

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株式譲渡

概要と目的

株式譲渡とは、株式の売買により会社の所有権を引き継ぐ手法です。

株式の過半数を保有していれば、単独で多くの決定を行えるため、経営権を所有していると言えます。そのため、株式譲渡によって会社の経営権を取得することを目指す場合、株式の過半数を取得する必要があります。

株式譲渡は、後継者問題を解決し会社を存続させることを目的として行われることのあるM&Aの手法です。

山本正樹
山本正樹/M&Aアドバイザー【記事監修者】

株式譲渡の目的は、事業承継の相続対策などがあげられます。また、中小企業のM&Aは株式の100%譲渡が一般的になります。

メリット

株式譲渡のメリットとして、以下のものが挙げられます。

  • 手続きが比較的シンプルである
  • 所有する株式の現金化が可能である
  • 会社を存続させられる

株式譲渡は会社を丸ごと譲渡する手法であるため、売却の手続きが比較的少なく済む点がメリットです。各種契約や会社の保有する資産などを包括的に買い手へ移行できます。

また、株式譲渡では、対価として現金が支払われることが一般的です。そのため、会社を売って現金を手に入れたいと考える経営者が選択することの多い手法と言えます。

株式譲渡では会社が存続させられることもメリットです。会社を存続させることで、顧客の需要に答えたり、従業員の雇用を守ったりできます。

デメリット

株式譲渡のデメリットとして、以下のものが挙げられます。

  • 後任の経営者を推薦できても選任はできない
  • 経営者が株式を100%所有していない場合、取引が難航する可能性がある

株式譲渡では、資産を包括的に譲渡するため、手元に残したい資産を選ぶことができません。どうしても残したい資産がある場合、先方との交渉の中で、該当資産を個人に譲渡したり会社分割などの他のスキームを用いる必要があります。

加えて、株式譲渡では会社の負債もまとめて引き継がれる点に注意が必要です。負債が多い場合、株式譲渡では買い手が見つかりにくいなどの問題が起きる可能性があります。

また、株式を経営者が100%所有していない場合、会社の売却のため、他の株主の了承が必要となる場合があります。一部の株主が株式を手放すことを了承しない場合、買い手が見つかりにくくなる可能性もあります。他の株主の理解がどうしても得られない場合には、M&Aの他のスキームを検討する必要があるでしょう。

手続きの流れ

株式譲渡での手続きの流れを紹介します。

株式譲渡の流れ
  1. 買い手探し(マッチング)
  2. TOP面談
  3. 基本合意契約書
  4. 買収監査
  5. 条件の最終調整
  6. 株式譲渡契約の締結
  7. 株主名簿の名義書き換え

多くの中小企業では、自社の株式に譲渡制限があり非公開株式をなっています。株式の譲渡には、前株主の譲渡承認が必要であるため、譲受企業が承認手続きなしに株式を取得することはありえません。

注意点

株式譲渡を行い、譲渡益を得た個人には税金が発生するため注意が必要です。

かかる税金は主に、所得税(15%)や住民税(5%)です。さらに復興特別所得税(0.315%)がかかるため、株式の譲渡益にかかる税金は合計20.315%です。

株式の売却金額が大きくなるほど、払う必要のある税金も高額になるため、事前に把握しておく必要があります。ほとんどの場合において、株式譲渡によって会社を売却した際には、確定申告が必要となるでしょう。

しかし会社の留保された利益を役員報酬でもらう場合と比べれば、税率は低いと言えるでしょう。節税効果としては期待ができる場合もあります。

山本正樹
山本正樹/M&Aアドバイザー【記事監修者】

株式譲渡のタイミングを契約書面でズラしたり、段階的に譲渡する場合もありますが、個人的には譲渡契約書締結時点に100%譲渡することをお勧めします。上記のような特異な株式譲渡を締結すると高確率で裁判に発展するケースがあり時間や裁判費用を考えれば、締結時点の100%譲渡が結果的に無難と言えます。

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第三者割当増資

概要と目的

第三者割当増資とは、売り手企業が株式を新たに発行し、買い手企業に買収してもらうM&Aの手法の一つです。

買い手企業が所有することになる株式の比率によって、売り手企業との関係性が変わります。多くの場合、役員の派遣などにより買い手側と売り手側が共同で経営を行うことになります。

第三者割当増資は会社の資産を増やし、経営を安定させる目的で行われることがあります。

山本正樹
山本正樹/M&Aアドバイザー【記事監修者】

他には、親しい取引先とより親密な関係を築くために出資してもらうケースがあります。反対に、負債や債務を補填するために出資してもらっているケースはかなり珍しいです。(私は見たことがないです。)

メリット

第三者割当増資のメリットとして、以下のものが挙げられます。

  • 資金が調達できる
  • 経営権を失わない

第三者割当増資により、返済する必要のない資金が得られる点はメリットです。調達した資金は、経営を立て直したり、安定させたりする目的で使用できます。また、新規事業を始めたり、事業を拡大する目的で資金を調達する場合もあるでしょう。

また、第三者割当増資では、売り手側が経営権を失わずに済む点もメリットとなります。ただし、新規発行する株式の数によっては、売り手の保有株式割合が低下することにより、議決権を幾らか失う可能性があります。

そのため、乱用できる手法ではない点に注意が必要です。

デメリット

第三者割当増資のデメリットとして、以下の点が挙げられます。

  • 既存株主の保有株式比率が下がる
  • 100%の株式を所有することにはならない

第三者割当増資を行うことで、株主総会における既存株主の影響力が下がってしまう可能性がある点に注意が必要です。経営権を保持しておきたい場合、第三者割当増資にて発行する株式の数を、自身の保有株式比率が一定数以下にならないように調整する必要があります。

また、買い手側のデメリットとして、株式を100%保有することとはならない点が挙げられます。既存株主が引き続き株式を所有するため、議決権を100%取得することはできません。

加えて、経営権の取得を目指して第三者割当増資を行う場合、株式譲渡と比較して掛かる資金が高額になる可能性が高いでしょう。

山本正樹
山本正樹/M&Aアドバイザー【記事監修者】

第三者割当増資では、議決権の出資比率が変動するので先方の議決権が過半数を超える場合は支配権が移転するので注意が必要です。
また、先方の出資額が少額でも少数株主権や単独株主権といった権利を行使できるようになるので法務リスクは一度確認しておく必要があります。

手続きの流れ

第三者割当増資の手続きの流れについて解説します。

第三者割当増資の流れ
  1. 取締役会・株主総会の実施
  2. 株主への通知
  3. 募集事項の一般公示
  4. 株式の割り当ての決定
  5. 出資金の支払い
  6. 株式発行・登記手続き

募集要項作成時、また株式の割当先と発行数を決定する際には、株主総会での特別決議もしくは取締役会での決議が必要です。

注意点

第三者割当増資を行った際に、状況によって税金が課される可能性があるため、注意が必要です。

第三者割当増資の際、時価によって株式を発行した場合には課税されません。しかし、新株引受人にとって有利となる時価より低い額での発行となった場合、贈与税や所得税が課税される可能性があります。また、株式を時価より高額で発行した場合には、その会社に税金が掛かる可能性があります。

税金については、取引前に確認しておくことが必要です。

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事業譲渡

概要と目的

事業譲渡とは、会社の事業の一部もしくは全部を譲渡する、M&Aの手法の一つです。

事業の選択と集中を目的として実施されることがあります。

山本正樹
山本正樹/M&Aアドバイザー【記事監修者】

その他、他企業との共同支配企業の形成で合弁会社を作ったりするケースがあげられます。

メリット

事業譲渡のメリットとして、以下の点が挙げられます。

  • 売る事業や資産を選択可能
  • 会社を存続できる

事業譲渡では、売却する事業や資産を交渉によって決定します。そのため、手放したくない資産を手元に残すことが可能です。また、不採算事業を手放したり、コア事業に集中するために他の事業を売るなどの選択肢があります。

また、事業譲渡では、会社自体が消滅したり、経営権が映ることはありません。残した事業を引き続き行うことや、新しい事業を社名をそのままに行うことができます。

デメリット

事業譲渡のデメリットとして、以下の点が挙げられます。

  • 手続きが複雑で手間がかかる
  • 負債が残る可能性がある

事業譲渡では、移行する資産、契約について個別に手続きが必要となります。そのため、手続きの量が多くなり、交渉に時間がかかる可能性が高いでしょう。

従業員との雇用契約も個別に再契約が必要となります。そのため、人材が流出するリスクにも注意が必要です。

また、売り手側のデメリットとして、負債が残る可能性がある点が挙げられます。事業譲渡では、負債に関しても移行するかどうか個別に交渉によって決める必要があるためです。

山本正樹
山本正樹/M&Aアドバイザー【記事監修者】

赤字事業を譲り渡す場合などは、0円譲渡など損切りすることが大事です。事業を営んできた身からするといくらかの価値をつけてほしいと思うのも当然ですが、既存事業を持っていたら発生する機会損失の切り離しが主な目的なので、機会損失と比べて譲渡価額は見定める必要があります。

手続きの流れ

事業譲渡の手続きの流れについて解説します。

事業譲渡の流れ
  1. 取締役会決議
  2. 事業譲渡契約締結
  3. 株主総会での特別決議
  4. 株主への通知
  5. 事業の譲渡実行

取引される事業が小規模である場合、株主総会での特別決議が必要ではない可能性があります。また株主総会にて反対した株主は、所有する株式の買取を発行会社に求める権利を有します。

注意点

事業譲渡を行った際、税金が発生するため注意が必要です。

事業を売った側には、事業を売った際の売却益に対し法人税が課されます。法人税率は、地域や会社の規模によって異なりますが、目安として約30~40%程度と考えておきましょう。

また、事業譲渡には消費税も課税されます。消費税を納めるのは売り手側であるため、注意が必要です。

事業譲渡の際に得た収入額にかかる税金は高額になる可能性が高いため、事前に把握しておくことが重要です。

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株式交換

概要と目的

株式交換とは、株式会社の発行済み株式の全てを他の会社に引き継がせる、M&Aの手法の一つです。この手法は、完全親子会社関係を作り出す目的で用いられます。全ての株式を引き継いだ会社が完全親会社となり、引き継がれた会社は完全子会社となります。

株式交換の対価として、親会社の株式が渡されるケースが多くあります。また、株式交換の対価として現金などが支払われるケースもあります。

山本正樹
山本正樹/M&Aアドバイザー【記事監修者】

株式交換は、株式譲渡の上位互換に位置付けられていると私は考えております。
株式交換は、企業法上の手続きが記載されいたり税制上での優遇も一部受けることができるので、一手段として認識しておく必要があります。

メリット

株式交換のメリットとして、以下の点が挙げられます。

  • 経営統合の手間が比較的少ない
  • M&A資金として多額の現金を用意しなくて良い
  • 対価として株式を取得できる

株式交換では、譲渡対象企業の経営者が変わりますが、譲渡企業の法人格は変わりません。そのため、契約や権利などの移転作業は少なく済むでしょう。

また買い手側のメリットとして、M&Aのために膨大な現金を用意する必要がない点が挙げられます。株式交換の場合、対価として買い手企業の株式を新規発行し渡すことができます。

ただし、反対株主がいた場合、その株主の保有する株式を買い取る必要が出る可能性があります。そのため、全く現金が必要ないわけではありませんが、株式譲渡などの手法と比較すると少額で済む可能性が高いと言えるでしょう。

売り手側は対価として、親会社となる企業の株式を入手できます。株主となることで、配当金などの所得が得られる可能性があります。また、株式を売却すれば、現金を入手することもできるでしょう。

さらに取得株式数によっては、親会社の議決権を多少手に入れられます。

デメリット

株式交換のデメリットとして、株価下落のリスクがある点が挙げられます。

株式交換のための対価として新株を発行した場合、1株あたりの株価が下がってしまうリスクがあります。この点は、対価として新株を受け取る売り手側にとってもリスクと言えます。対価として受け取った株式を現金化する際に、想定より得られる金額が低くなってしまう可能性があるためです。

しかし、逆に株価が上昇する場合もあるでしょう。先の見通しが立ちにくい点が株式交換の難しいポイントと言えます。

手続きの流れ

株式交換の手続きの流れについて解説します。

株式交換の流れ
  1. 株式交換契約締結
  2. 事前開示書類の作成
  3. 株主総会での決議
  4. 株券提出
  5. 変更登記
  6. 事後開示書類の作成

株式交換に反対する株主がいた場合、所有する株式を発行会社に買取してもらう権利が発生します。そのための手続きなどが追加で発生する可能性があります。

原則株式交換の際に開催した株主総会では、議決権の3分の2以上の承認が必要となる特別決議を行います。

注意点

株式交換の際には、所得税や法人税などの税金が発生する可能性があるため注意が必要です。かかる税金の種類や税率は、状況によって異なります。

子会社となった売り手企業の株主が、対価として親会社の株式のみを得た場合、税金は発生しません。しかし、株式以外のものを対価として受け取った場合や、対価として得た株式を売却した際には所得税が発生します。
税務上の扱いは、状況によって異なり複雑なため、事前に専門家に相談することをおすすめします。

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株式移転

概要と目的

株式移転とは、新規に親会社を設立し、自社株を全て取得させる、M&Aの手法の一つです。

株式移転によって完全な親子会社関係が設立されます。複数の株式会社が合同で株式移転を行う場合もあります。

株式移転の目的として、複数の株式会社の経営統合を目指す場合があります。また、所有と経営を分離し、健全な経営運営を行うことを目的とする場合もあります。

メリット

株式移転のメリットとして、以下の点が挙げられます。

  • 多額の現金を用意する必要がない
  • 比較的容易に経営統合が行える

株式移転の対価は、新規に設立した親会社の新株である場合が多いです。そのため、M&Aで多くの場合に必要となる多額の現金を用意する必要がありません。

また、株式移転を行った後も、既存会社は引き続き存続化可能です。そのため、経営統合のための組織再編を、比較的変化の少ないまま行える点がメリットと言えます。

デメリット

株式移転には、手続きが複雑であるというデメリットがあります。

株式移転を行うためには、株主総会における特別決議が必要となります。特別決議が可決されるためには、議決権の3分の2以上の賛成を必要とします。そのため、株式移転を行うためには株主の理解を得ることが不可欠です。

また、債権者保護手続きや株主への通知を行う必要があるなど、株式移転の手続きには時間や手間がかかり、専門的知識も必要です。

手続きの流れ

株式移転の手続きの流れについて解説します。

株式移転の流れ
  1. 株式移転計画作成
  2. 事前開示を実施
  3. 株主総会による特別決議
  4. 債権者保護手続きや株式買取請求など
  5. 新株発行
  6. 登記変更
  7. 事後書類の開示

全体の手続きの量が多いため、株式移転には数カ月以上時間がかかる場合があります。

注意点

株式移転を行うことにより、株価が変動するリスクがある点に注意が必要です。

株式移転では、会社を新設するため、運営コストが増大することが避けられません。そのため、短期的に見て利益が減少する可能性があります。

そうした点を踏まえ、市場が株式を売りに出す傾向になってしまうと、株価が下がってしまいます。

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合併|企業を包括的に承継する方法

M&Aの手法である合併は、以下のように分類されます。

合併の分類

吸収合併

概要と目的

吸収合併とは、2つ以上の会社が1つの会社となる合併の一種です。

吸収合併では、合併する会社の内1つは引き続き存続し、他の会社存続しません。存続した1つの会社が他の消滅した会社の権利や義務を継承します。

複数の会社の経営を統合することにより、効率化を図る目的で行われることのある手法です。

メリット

吸収合併のメリットとして以下の点が挙げられます。

  • 包括的な継承を行える
  • シナジー効果が見込める

吸収合併では、消滅する会社の権利義務などが包括的に継承されます。例えば、従業員の雇用契約も引き継がれることになるため、従業員が職を失うことへの心配がありません。取引先との契約も継続することが可能です。

また吸収合併では、経営が統合されるため、より緊密な関係が築かれることとなります。そのため、複数の会社が協力関係を強固に築くための手法として、吸収合併は有用であると言えるでしょう。

デメリット

吸収合併のデメリットとして以下の点が挙げられます。

  • 組織再編が難しい可能性がある
  • 周りへの印象が悪い可能性がある

吸収合併では、2つ以上の会社が一つになるため、組織の再編が必要です。会社ごとに異なる社風や習慣をお互いに擦り合わせるためには、時間や努力が必要でしょう。また、人事に関する決定事項も多くなるため、M&Aの契約締結後にも多くの仕事があります。

また、消滅する会社と存続する会社があるために、周囲の理解が得られにくい可能性がある点に注意が必要です。消滅する会社側の従業員にとっては、不安感も大きいでしょう。また、取引先などへの不信感を与えてしまう可能性もあります。

そのため、吸収合併を行う際には、事前によく説明し、理解を得るための対策が必要となります。

手続きの流れ

吸収合併の手続きの流れについて解説します。

吸収合併の流れ
  1. 契約の締結
  2. 契約書類の開示
  3. 株主総会での決議
  4. 合併の効力発生
  5. 事後開示書類の開示

吸収合併を行うためには、株主総会で特別決議を行い可決される必要があります。そのためには、議決権の3分の2以上の賛成が必要となります。

注意点

吸収合併の際には、税務の取り扱いに注意が必要です。

消滅会社の株主に、みなし配当や譲渡損益が生じ、課税対象となる場合があるためです。しかし、吸収合併が幾つかの要件を満たす「適格合併」に該当する場合には、みなし配当課税が生じません。

適格合併の要件には、対価が存続会社の株式のみであることや、従業員の多くが引き継がれることなどがあります。

配当所得への税率は、最高で合計55.945%(所得税、住民税等を含む)です。

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新設合併

概要と目的

新設合併とは、複数の会社が合併を行う際の手法の一つです。合併を行う会社はすべて消滅し、それらの会社の権利・義務を新設した会社が引き継ぎます。

組織の再編を目的として行われることのある手法です。

メリット

新設合併のメリットとして、対等なM&Aであるとみなされやすい点が挙げられます。関係する会社が等しく消滅することになるためです。

例えば吸収合併では、消滅する会社側の従業員や取引先が不安を感じる可能性があります。しかし、新設合併では合併後の社内の上下関係や待遇の差が生じることへの不安感を減らすことができるでしょう。

デメリット

新設合併には、手続きが複雑になるというデメリットがあります。

吸収合併と比較し、会社を新設する分の手続きの負担やコストは大きくなります。また、異なる習慣を持つ複数の会社が1つとなるため、従業員間のトラブルを避けるための対策も必要でしょう。

手続きの流れ

新設合併を行う際の手続きの流れについて解説します。

新設合併の流れ
  1. 取締役会の承認
  2. 新設合併契約締結
  3. 事前開示書類の作成と開示
  4. 株主総会における特別決議
  5. 効力発生
  6. 登記申請
  7. 事後開示書類の開示

登記の際には、設立登記と解散登記を並行して進める必要があります。準備する必要のある書類もその分多くなるでしょう。

注意点

合併の際には、登録免許税を支払わなければなりません。

吸収合併の場合、増えた資本金に対して税金がかかります。しかし新設合併の場合、新設会社の資本金全額に対し税金がかかることとなります。そのため、新設合併は吸収合併と比較し、税金面での負担が大きくなる点に注意が必要です。

登録免許税の税率は、0.15%です。

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分割|企業再編を目的とした手法

M&Aの手法である分割は、以下のように分類されます。

分割の分類

吸収分割

概要と目的

吸収分割は、会社の特定の事業を分割し別会社へ移行する会社分割の手法の一つです。吸収分割では、分割した事業を買い手側の会社が継承します。

特定の事業を売却するという面においては、事業譲渡と似ているM&Aの手法です。しかし、吸収分割では分割事業に関わる権利義務などを包括的に移行できる点で、事業譲渡とは異なります。

吸収分割は事業の選択と集中を目的として行われることがある手法です。

メリット

吸収分割には、事業を移転するための手続きが簡便であるというメリットがあります。

事業譲渡の場合、移行する資産や契約に関して個別に対応が必要となります。しかし吸収分割では、資産や契約などを包括的に移行することが可能です。

事業の規模が大きな場合、移行する資産や契約の数が多くなるため、吸収分割を行うメリットも大きくなると言えます。

デメリット

吸収分割には、実施に株主の理解が必要であるというデメリットがあります。

吸収分割を行うためには、株主総会において特別決議が必要です。特別決議で可決されるためには、議決権の3分の2以上の賛成が必要となります。

また吸収分割を行うことにより、分割前と比較して一会社当たりの手掛ける事業が減ることになります。そのため、吸収分割を行うと会社の規模は短期的に見て縮小します。株主がこうした点をリスクと考え、吸収分割に賛同しないケースが有り得るでしょう。

これらの点を踏まえ、吸収合併の実施前後には、株主の理解を得る努力が必要となります。

手続きの流れ

吸収分割の手続きの流れについて解説します。

吸収分割の流れ
  1. 吸収分割契約書の作成
  2. 従業員への通知
  3. 株主総会での特別決議
  4. 登記申請

吸収分割に反対する株主がいた場合、その株主は買取請求を行う権利を持ちます。その株主の持ち株を、分割会社は適正価格にて買取を行います。

注意点

会社分割を行った場合、税務上資産を譲渡したと扱い、譲渡損益額を計上します。そのため、会社分割を行った際の譲渡益に対し、課税される場合があります。

しかし、分割の際に幾つかの要件を満たすことで「適格分割」の基準を満たせば、基本的に課税されなくなります。そのため、分割を行う前に、できるだけ適格分割の要件を満たすよう調整することをおすすめします。

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新設分割

概要と目的

新設分割とは、会社分割を行い、分割した一部を新設した会社に継承させることを指します。複数の会社が共同で新設分割を行う場合もあります。

企業グループ内での組織再編を目的として用いられることのある手法です。

メリット

新設分割のメリットとして以下の点が挙げられます。

  • 資産や権利義務の引き継ぎの手間が少ない
  • 会社設立のための資金が少なく済む

事業譲渡と異なり、新設分割では事業と共に関係する資産や契約などが包括的に継承されます。そのため、個別に契約を結び直す必要がありません。規模の大きな事業を切り離して別会社にしたい場合には、新設分割が適切なスキームとなる可能性が高いでしょう。

また、新設分割では、比較的コストを抑えて会社を新設できます。新設会社の新株を事業継承の対価として用いることが可能なためです。株式を対価とすると、買い手にとっても税金面でプラスに働く可能性があります。

デメリット

新設分割のデメリットとして、対象企業が非上場企業であるとき、対価としての株式の現金化が難しい点が挙げられます。

新設分割の際には対価として新設された会社の株式が用いられるケースがあります。しかし、新設された会社が上場するまでは、対価の株式を現金化することは困難です。

手続きの流れ

新設分割の際の手続きの流れについて解説します。

新設合併の流れ
  1. 新設分割契約締結
  2. 事前開示書類の開示
  3. 株主総会での特別決議
  4. 株主への通知
  5. 債権者保護手続き
  6. 事後開示書類の開示

新設分割には、株主総会での特別決議での承認が必要です。そうした点から、新設分割の手続きには数カ月以上かかる場合が多いでしょう。

注意点

新設分割を行った際の税務処理は複雑になるため、注意が必要です。

組織再編税制による特例扱いを受けることができれば、譲渡損益やみなし配当が発生していないという扱いを受けられます。この特例扱いを受けるためには、幾つかの適格条件をクリアする必要があります。新設分割を行う前に、この条件を達成できるかどうか検討することをおすすめします。

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提携|広義のM&Aに該当する手法

広義のM&Aに該当する手法として、資本提携が挙げられます。また、一般的にM&Aとは区別されますが、複数の企業が協力関係を結ぶ手法として、業務提携があります。以下ではこれらについて解説します。

提携の種類

資本提携

概要と目的

複数の企業が協力し合う提携の形の一つとして、資本提携が挙げられます。資本提携とは、複数の企業が資金や技術を出し合い、事業の強化を目指すことです。

企業の協力関係を強固にする目的で行われる場合があります。また、将来的に合併などのM&Aを行うことを見据えている場合もあります。

多くの場合、片方の会社が出資を受けるという形での資本提携が行われます。出資を行う側が出資を受ける側の株式を持つことになります。

メリット

資本提携のメリットとして、以下の点が挙げられます。

  • 強固な協力関係を築ける
  • 経営の独立性を保てる

資金面でのサポートを受けることにより、両者の関係性を強めることができます。出資をする側にとっても、リスクを抑えた状態で事業に一枚噛めるという点がメリットとなるでしょう。

また資本提携は、他のM&Aの手法と異なり、経営体制への大きな変更を伴いません。各社の独自性を保ったまま、協力関係を築ける点がメリットと言えるでしょう。

そのため多くの場合、出資をする側が保有する株式の割合が高くなりすぎないよう調整することになります。

デメリット

資本提携のデメリットとして、出資をする側にある程度干渉されてしまう可能性がある点が挙げられます。

出資を受け、株主になってもらうということは、一定数の議決権を渡すということです。そのため、経営に関してある程度の干渉を受ける可能性は捨てきれません。

出資者の持ち株比率が3分の1を超えてくると、株主総会において特別決議の可決阻止が行えるなど影響力が増してしまいます。

出資を受ける際には、その額が多くなりすぎないように注意する必要があるでしょう。

手続きの流れ

資本提携を行う際の手続きの流れについて解説します。

資本提携の流れ
  1. 資本提携の相手探しと交渉
  2. 契約の締結

資本提携に関して、会社法などによる明確な定義はありません。そのため、契約内容は状況によって様々です。契約内容に関しては、弁護士など専門家と相談しつつよく確認してからサインする必要があります。

注意点

資本提携を解消する際には、多額の資金が必要となる場合がある点に注意が必要です。

資本提携解消時には、株式の買取を求められる場合が多いでしょう。場合によっては、出資額以上の金額での買取となる可能性もあります。こうしたトラブルにより経営を悪化させてしまうことがないよう注意する必要があります。

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業務提携

概要と目的

業務提携とは、資本の移動を伴わずに複数の企業が協力体制を築くことです。

資本の移動がないため、一般的にはM&Aとは区別されますが、M&Aと似た目的を持って行われる場合があります。例えば、事業の成長を目指したり、シナジー効果による業績向上を目指したりする場合です。

業務提携に法律上の具体的な定義はなく、契約内容は様々な形を取ります。技術を提供し合う技術提携や、新しい商品を開発するための共同開発提携などが例として挙げられます。

メリット

業務提携のメリットとして、以下の点が挙げられます。

  • M&Aと比較して気軽な運用が可能
  • 多様なシナジー効果が期待できる

資本の移動が必要となるM&Aと比較して、業務提携では手続きが少なく済む場合が多いです。また、コストも比較的少ない場合が多く、M&Aよりは気軽に開始できます。

提携する相手や契約内容により、期待できるシナジー効果は様々です。例えば共同開発提携では、それぞれの会社が持つ独自の技術を組み合わせることで、より良い商品を開発できる可能性があります。また販売提携により、製品の売り上げ向上が目指せる場合もあるでしょう。

デメリット

業務提携のデメリットとして、情報漏洩のリスクがある点が挙げられます。

業務提携の際には、互いにある程度情報を公開し合うことになります。その中には、技術やノウハウなど機密情報にあたるものが含まれる場合もあるでしょう。

こうした情報にアクセスできる人の数が増えることには、リスクが付きものです。業務提携を行う際には、信頼できる相手をよく選ぶ必要があるでしょう。

手続きの流れ

業務提携を行う際の手続きの流れについて解説します。

業務提携の流れ
  1. 提携先相手探し、交渉
  2. 秘密保持契約の締結
  3. 基本合意
  4. 提携契約締結
  5. 業務提携開始

業務提携の契約前に、デューディリジェンスが行われる場合もあります。デューディリジェンスとは、経営状況に対する監査を指します。提携先の会社がリスクを抱えていないか、調査する目的で実施されます。

注意点

業務提携を成功させるためには、良い計画と綿密なコミュニケーションが欠かせません。

契約後に互いのビジョンに違いがあると、トラブルに発展してしまいかねないため、事前に交渉や相談を細部まで行う必要があります。

また、契約の一方的な解除は認められない場合が多いため、契約前にしっかりとプランを練ることも重要です。

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M&Aの各種類の成功事例を紹介

以下では、各手法を用いて行われたM&Aの事例について解説します。

買収(株式譲渡)の事例

日輪は、株式譲渡によりライフ・コーポレーションを買収しました。

日輪は、人材サービス業などの事業を行う株式会社です。株式会社ライフ・コーポレーションは施設常駐警備事業を愛知県で運営しています。

ライフ・コーポレーションは、株式譲渡により後継者人材問題を解決できました。日輪側は、求人サイトを運営する中で、高齢人材の働き口を確保する目的で買収を行いました。

なお、今回の事例に関して売却価格は公開されていません。

合併(吸収合併)の事例

2021年3月、LINE株式会社は汐留Zホールディングス合同会社を吸収合併しました。その際、LINE株式会社は、Aホールディングスに商号を変更しています。

この事例における吸収合併は、LINEとZホールディングスが経営統合を行う際のスキームの一環として行われたものです。その際、複数の企業が絡む複雑なスキームが実施されました。

競争の激化するインターネット関連サービス事業において競争力を高めるため、経営統合による連携を強めることを目指してのM&Aです。

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分割(吸収分割)の事例

楽天グループは、2023年に決済ビジネスを集約する目的で吸収分割を行いました。

楽天グループ株式会社が、分割によって楽天ペイ事業と楽天ポイント事業を切り出し、楽天ペイメント株式会社に継承させる形です。

今回のグループ内再編により、よりサービスの使用感を向上させ、グループの顧客基盤拡大に繋がる見込みです。

その他の事例

2023年、名古屋鉄道株式会社は、株式会社プロドローンとの間に資本業務提携契約を締結しました。プロドローンは、産業用ドローンメーカーです。

名鉄グループの資源を活用し、ドローンの開発やサービスの向上を目指す形です。

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M&Aの種類に関するよくある質問

最も一般的なM&Aの種類は何ですか?

中小企業において、用いられることの多いM&Aの手法は株式譲渡です。手続きが比較的簡単である点や、事業への影響が少ない点が採用されることの多い理由です。

M&AのDD(デューデリジェンス)に種類はありますか?

M&Aの際に行われるDDの種類は多岐に渡ります。例として、事業DD、財務DD、税務DD、法務DD、人事DDなどが挙げられます。

どのDDが行われるかについては、M&Aを行う会社の業種や状況によって異なります。多くの場合、綿密な調査を行うため、複数のDDが実施されるでしょう。

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M&Aの契約書の種類はありますか?

M&Aの際には、複数種類の契約書を作成することになるでしょう。それらには、売り手と買い手との間で作成する基本合意契約書や最終契約書が含まれます。

また、M&A仲介業者を利用する場合、機密保持契約書やアドバイザリー契約書を作成することになります。

この記事の監修者
この記事の監修者
山本正樹
M&Aアドバイザー
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プロフィール
新卒で日本M&Aセンターに入社。そこから同業のベンチャーに転職して業界に4年間在籍。譲渡企業側の相談を多数経験。業種は拘らずに金融機関や士業等からの紹介が中心。
監修者の身元
専門ジャンル
M&A
この記事を書いた人
この記事を書いた人
「M&A相談窓口」ライティング部門